IIJ 技術研究所、山本和彦
作成 1995年11月23日
更新 2009年7月2日
このページでは、正確な文章を書くための秘訣をまとめてみようと思います。それほど文章がうまいとはいえない私が、文章の書き方について述べるのですから、むこうみずな行為であることは百も承知です。しかし、数年に渡って探求した正確な文章の書き方が、少しでもみなさんの役に立てばという思いを自分への励ましに代えて筆をとります。
ここでお話するのは、「文章をいかに正確に書くか」や「自分の考えをどうやったら適切に表現できるか」であって、決して「どうやったら人を感動させる名文句が書けるのか」ではありません。
このページを読んだら「科学技術文献」を書くための技術が少しは身に付くのではないかと期待しています。しかし、
人はいさ 心も知らず ふるさとは 花ぞ昔の 香ににほひける (紀貫之)
などのような心に残る文章が頭に浮かぶようになるわけではありません。
絵の書き方に例えて言うなら、ここで述べる内容は、色彩や調和、あるいは、絵の具の溶き方などのような基礎技術です。決して名画の書き方ではありません。名画はその画家だけが描けるから名画たるのです。
内容はまだ不完全です。適切な例題、よりよい説明が見付かったときに更新します。
はじめに
文章を書くために大切なことはたくさんありますが、一番大切なことは「正確さ」です。特に科学技術論文では、自分の伝えたいことを間違いなく簡潔に表現しなければなりません。「てにをは」の誤りは言うまでもなく、誤植、文法間違い、内容や数字の誤りなどは、大変ですができるだけ排除すべきです。
一番大切なことは「正確さ」ですが、文章を書くための最低条件は何かと聞かれれば、私は自信をもって「伝えたいことだ」と答えます。伝えたいことがなければ、正確な文章はおろか、文章さえ書けないからです。
このようなことを長年あれこれ考えているうちに、文章を探求することは階段を一歩一歩上がって行くことに似ていると思うようになりました。この階段は天国への階段のように、とほうにくれるほど長く感じます。終着駅が本当にあるのかときどき疑ってしまいます。
今私に見えている階段を下から書くと次のようになります。
- 伝えたいこと/あふれる思い
- 正確さ/曖昧さの排除
- 豊かさ/軽やかさ
- バランス感覚/素直さ
- 内容の構成
- 思いきり/吟味する
先程述べたように、「伝えたいこと」の上には「正確さ」という階段があります。その上には、「豊かさ」、「バランス感覚」、「内容の構成」、「思いきり」などの階段が控えています。
実はもっと上にも階段がありますが、ここまででも十分恥ずかしいので、これ以上恥ずかしいことをしらふのときに言いたくありません。酔っているときにでも聞いて下さい。
伝えたいこと/あふれる思い
文章を書く動機は人さまざまです。文章を生活の糧としている人や研究内容を論文で発表する人は、〆切までに原稿を仕上げる必要があります。課題のレポートを明日までに提出しなければならない学生もいるでしょう。
しかし、そんなふうに急き立てられないときでも人は筆を手にとります。なぜ人は文章を書くのでしょうか?もちろん、誰かに伝えたいことがあるからです。日記だって将来の自分へのメッセージに他なりません。
文章を書くための最低限の条件は、伝えたいことがあることです。伝えたいことが何もない人がよい文章を書けるはずがありません。
伝えたいという気持は、別の言葉で表現すると「あふれる思い」です。自分の心のコップに次第に溜っていった思いという名の水が、いつかいっぱいになって溢れ出します。そういうときに書いた文章は、後から読み返しても生き生きとしています。
たとえば、何かプログラムの解説を書くことになったとしましょう。ある人はレポート提出の義務から〆切の前日に今はやりのプログラムを少し使って、表面的にはよくまとめました。またある人は、昔から使い続けてきたプログラムについて、修得に苦労した点やなぜ飽きないのかといった素朴な疑問について、たどたどしい文章で書き綴りました。べつに書きたくて書いたわけではない文章と、書きたくて書いたレポート、どちらの内容が優れているかは明らかです。
文章がうまくなりたいと思うのだったら、書きたいことを見付けるのが一番です。好きこそものの上手なれ。書きたくて書きたくてしょうがない状態を作りましょう。研究者なら素晴らしい研究をしましょう。そうすれば、自然と研究内容を人に伝えたくなるはずです。
長いときを経て溢れ出た思いを時間をかけて丁寧に書く。時間に追われがちな私がいつも心に刻んでいることです。
正確さ/曖昧さの排除
文章を書く上で「正確さ」が一番大切です。文章を書く理由は、だれかに何かを伝えたいからです。正しく伝えられないのなら、誤ったことを伝えるぐらいなら、書かない方がよいのかもしれません。
科学技術論文に限っていえば、適切に表現された文章、つまり、曖昧でない文章を書く必要があります。文学小説や詩にみられる余韻は、科学技術論文には必要ありません。
正確な文章を書くための技術は、主に文法と表現方法に基づきます。以下少し長くなりますが、憶えておきたい文法と表現方法について述べます。
文法
文法というと何だか難しく響きますね。しかし、ここで説明するのは、国語の試験で憶えたような難解で役に立たない内容ではなく、単純でかつ役立つ項目ばかりです。
文の論理構造
日本人は日本語を知りすぎているので、文章を書く際に文法を考えることは少ないでしょう。書いた文が日本語として響くかは、日頃の経験から読んだだけで分かってしまいます。しかし、文章をこれから学ぼうという人は、できる限り文法に気を配って下さい。別の言葉で言えば、文の論理構造を見通す訓練を心がけましょう。
初めから流暢な文章を追求するのは、賢いやり方ではありません。遠回りに思えても、基礎から学んでいくとよいと思います。文の基本は、小学校のときに習った
いつ、どこで、だれが、なにをしたか
です。言い替えれば、
主語、目的語、述語
を明確に書き下すことです。いつも、「この文の主語は何か」、「目的語はどれか」、「述語は?」といった自問自答を繰り返して下さい。
主語、目的語、述語が明瞭な文は、芯の通った落ち着いた感じを与えます。文の論理構造がはっきりと目に見えるようになれば、あとは論理構造を気にしなくても的確な文が書けるようになるなずです。