細谷雄一の研究室から:2008年10月 - Livedoor Blog(ブログ)
今回の討論会は、副大統領候補のそれとしては歴史上まれに見る注目です。それももちろん、ペイリン効果です。普通では考えられない、とんでもない選択をマケイン氏は行ったわけですが、「ハイリスク・ハイリターン」のいずれもが現れているようです。ペイリンを起用することで、これまで共和党の一匹狼で、中道的立場で、いわゆる宗教右派などから距離を置いてきたマケインにとって最大の課題を乗り越えようとしています。つまり、どのようにそれらの層をとりこむかです。過激な発言で中絶反対や神への信仰、同性愛結婚の反対などを叫んできたペイリンは共和党右派層に� �ってまさに「マドンナ」。
他方で、アラスカ知事一期目としての副大統領候補としての未知数な手腕が、懸念されていましたが、いくつかのテレビインタビューでは目を閉じたくなるような恥ずかしい失言、知識不足、鈍感さで、共和党を含んだ政策コミュニティを懸念させてきました。
ペイリンにとっては、マケイン候補への支持率が下がり続け、じり貧状態の中で、ここで失言、妄言をすればこれはほぼ致命傷となります。まさに崖っぷちの討論会でした。それゆえここ二週間ぐらいは、完全に缶詰状態で、中学受験前の受験生さながら「スパルタ教育」を受けてきたようです。付け焼き刃的な知識がどこまで通用するか。
研究のアプローチは何ですか?
他方でジョー・バイデンはいわずとしれた、アメリカ上院を代表する、いやアメリカを代表する外交安保通で、貧しい境遇で育ちながらとても洗練された落ち着いた風格を漂わせています。とはいえバイデンは短気で知られ、また失言癖もあり、安易な失言が、その後の共和党陣営からの嵐のような批判の的となります。
いずれも、失言ができない、また大変注目された重要な討論会。さて、どのように始まるのか。
格闘技好きな私としては、K1やPRIDE、HEROS,DREAMなどで見慣れた、まさに決戦の雰囲気です。両者友好的に笑顔を見せて、握手をしながら、「試合」が始まると動物のように戦いあいます。ただちょっとした油断 が命取り。ほとんど劇画的、格闘技的な光景です。
討論の中身、政策論議については、ペイリン氏の答弁は目を当てられない恥ずかしいもので、重要な司令官の名前を間違えたり、自分な苦手な質問がくるとその質問を無視して情緒的にアピールして、「エネルギー」など自分の得意な分野にほとん強引に結びつけるなど、「ただならぬ雰囲気」をもっています。しかしそんなんことはどうでもよし。共和党としてはなりふり構わず、選挙に勝つこと、とりわけ無党派の中間層、および宗教右派などの両候補にまだ明確な支持を出していない層などを取り込むことが最優先。そのための秘密兵器ですから。
資金が利用可能であるかどうかはどのように見つけることができます
翌朝新聞各紙は、おおよそ両者に好意的です。というのも、いずれも大きなミスをしなかった、といことです。とりわけ、相当程度危ぶまれたペイリン候補が、かなりがんばったということをよく評価していました。「よく勉強した」ということでしょうね。「低いハードルをどうにか越えられた」という評価のようです。とはいえなかなか、度胸のあるタフな候補ですね。
おもしろかったのは両候補の戦略です。民主党陣営としては、8年前のアル・ゴアの教訓があります。つまりは、政策通のゴア氏が、やや具体的政策の知識に欠けていたブッシュ候補に対して、怒濤のような攻勢をかけて詰めより、ふがいない返答� ��したブッシュ候補を聞いているときに失笑した場面が移されて、それがとても失礼だと言うことで、支持率が落ちていきました。したがって、女性候補で新人のペイリン候補を、もしもバイデンが激しく攻撃すれば、女性層などが「かわいそうだ」、「いじめるな」と、オバマ=バイデンからはなれてしまうかもしれないのです。さて、バイデンはどのように攻めるのか見物です。
バイデン氏は、興味深いことに、ほとんど一回もペイリンを激しく攻撃しませんでした。ほぼすべて、マケイン候補批判一辺倒。同じ上院議員で、外交に詳しいマケイン氏を批判することで、外交面での民主党の正しさを主張する。もちろんその場でマケイン候補はいないわけですから反論できず、ペイリン候補も細かいことはわかりませんから、それ� ��対しては、的を得ぬ「マケイン賛美」を繰り返すだけです。これは実に効果的でした。
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他方でペイリン候補は、もっと宗教右派にアピールするような、倫理や道徳などを戦略として訴えると思いました。ところがこの領域にはあまり食い込みませんでした。ときどき、宗教的な言葉、たとえば「Evil」や「God」など、という言葉を強引に使用していましたが、全体的にはむしろ失言をしないこと、副大統領として場合によっては、大統領になる用意があることをイメージづけることを優先したのかもしれません。守りの戦略ですね。ただし、表面的にはペイリン氏は激しく民主党をののしりときには、バイデン氏をののしっていました。これは明らかに、バイデンの失言を引き出す戦略でしょうね。バイデンは感情的に反論する場面もありましたが、む しろこれはポジティブな印象を与えたようです。
アメリカの大統領選挙は、とりわけ有名な1960年のケネディ=ニクソンの討論会以降、メディア戦略が肥大化し、それは今回に一線を越えてかなりの水準に達したように感じます。それはいうまでもなく、大量の資金に恵まれたオバマに有利に働いています。コマーシャルも効果的にテレビで流れていますし、相当力があるPR会社やスタッフを使っているのでしょう。
外交面では明らかにそれは、大きなダメージを与えます。近年刊行された、アメリカ外交に関する興味深い本に、Stefan Halper and Jonathan Clarke, The Silence of Rational Center: Why American Foreign Policy is Failingというものがあります。この二人はかつて、America Alone: the Neo-Conservatives and New Global Orderという本だしこれは広く読まれました。アメリカ人の外交官出身で、その後ケンブリッジ大学でアメリカ外交を教えたりしているようですが、アメリカ外交の病理として、
The Axis of Evilというような「The Big Idea」を強引に政策で実践しようとすること、resourcesとidealsのバランスを失っていること、また過剰な「Media Politics」が政策をゆがめていることなどが指摘されています。
比較的当たり前なことかもしれませんが、しかし意外とそれを冷静に分析するのは容易ではないかもしれません。過剰な批判ばかりする人、権力にすり寄り政策に迎合する人、必要な政策を理解しながら沈黙を続ける人、などに対して辛辣な批判をしております。そのような真剣な議論は、もっと行われてもよいのかもしれません。
アメリカの新聞などのオピニオンなどでも、やはりマケイン氏が選挙戦術を優先してペイリン氏を副大統領候補に選択した「失策」を批判する記事が多いようです。その点では、自らの外交政策の弱さを補うためにバイデン上院外交委員長を選んだオバマ陣営は、他にいろいろな要素があるとはいえ、比較的まっとうな戦略のようにも思 えます。その効果は、徐々に世論調査にも現れているようです。
とはいえ、最近の選挙はとにかく、最後の最後までわかりません。一つの失言、スキャンダル、中傷キャンペーンが形勢を逆転させます。さて、これから一ヶ月、さらに激しくおもしろく、また醜い、しかし民主主義の重要性を認識させる戦いが加速するのでしょう。
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