医療分野のビッグデータ事例 「Hadoop」を採用した徳島大学病院 − TechTargetジャパン 医療IT
徳島県の取り組み
1993年から2006年まで14年連続で糖尿病死亡率が全国で最も高かった徳島県。同県は2005年に県の医師会と共同で「糖尿病緊急事態宣言」を行い、糖尿病とその合併症(がん、脳卒中、心筋梗塞など)の発症予防や重症化予防への対策を喫緊の課題として掲げていた。2010年に総務省の「ICTふるさと元気事業」の交付金を受け、「ICT活用での糖尿病疾病予防管理サービス事業」の一環で地域医療連携を支援するシステムの構築に取り組んでいる。
森川氏は、このシステムは「地域の患者情報の単なる連携ではなく、地域の症例データを収集し、その状況に合わせて組織を越えた医療介入を実現することが目的だ」と説明する。
具体的には、複数の医療機関や健診センターにおける共通ネットワークを構築し、継続的な健診結果情報の一元管理を図り、包括的な疾病予防管理サービスを提供する。徳島大学病院と地域の病院、保健センターのデータを大学病院内に設置されたサーバに蓄積する。そこに診療所20カ所を連携し、各施設の検査結果やレセコンデータをサーバに集約する仕組みを構築した。「各施設に存在する患者情報を患者IDでひも付ける分散型のリポジトリ方式ではなく、データをできるだけ集積する仕組みを採用した」(森川氏)
この連携により、保健センターが保有する特定健診の検査結果から糖尿病の疑いがある住民を診療所に紹介し、症状に合わせて診療所から病院へと引き継ぐ。その患者の経過状況を複数の医療機関で共有し、分析している。
システムの特徴は「独自コードの採用を禁止している」点にある。保健センターはXMLで、病院間をSS-MIXで連携している。森川氏は「レセプトデータだけでは全てを測れない。そこにSS-MIXを併せ、各種検査、画像データを組み合わせる必要がある。これらは全て標準化されているデータである」と説明する。
また徳島大学病院は、健康保険鳴門病院と共同でDPC(診断群分類包括評価)方式のレセプトデータを収集し、匿名化した上で名寄せする実証実験を行っている。レセプトデータによって、診療所で糖尿病と診断されてから最終的に人工透析などの治療を行うまでの期間を検証したり、検査データと照合してその経過状況などを分析する。また、分析結果は、地域の診療所に糖尿病の検査の重要性を伝えたり、医療機関共通の診断指標や薬剤投与の仕組みなどの研究資材にも利用できる。
森川氏は「実証実験では個人情報の取り扱いと医療の質の向上につながる分析可能なデータを探っている。個人情報の取り扱いについては、しっかりと議論した上で活用している」と説明する。
ビッグデータの取り扱いに適するデータベース
森川氏によると「こうしたデータが蓄積されていくと、ビッグデータになる」という。現在は標準化されたデータを収集し、RDBMSとキーバリュー型「Cassandra」、並列処理フレームワーク「Hadoop」「Map Reduce」などを併用している。
また、森川氏は「RDBMSは標準化されていない、かつトランザクションが多いデータに優位性がある。標準化されていて検索や集計処理の方法が固定化されているデータはキーバリュー型が適している」と語る。さらに「EHRの実現はコストがネックとなる。コスト対策として、徳島県では経年にわたる保守費用が発生しないオープンソースソフトウェアの採用を進めている」と説明する。
「ビッグデータは次の流れとして、クラウド化するシステムでデータセンターにデータが集約されることで、2、3年後にはRBDMSからキーバリュー型への移行が進むだろう」(森川氏)
今後、より広域ネットワ―クを介した医療情報の連携が求められる。森川氏は、海外の先行事例として、カナダのNPO法人「Infoway」によるシステム標準化活動や米国ユタ州の広域医療圏統合ネットワーク、シンガポールが政府主導で進めている生涯カルテシステムなどを紹介し、「日本でも単なる地域患者の情報連携にとどまらない仕組みを構築する必要がある」と説明した。
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